「パレードを写そう!」で最後に触れた通り、夜のパレードの撮影は非常に難しいものです。
ストロボを使うとせっかくの雰囲気が台無しになり、かといってノーストロボでは暗すぎて手ブレが避けられません。
この講座は、比較的入手しやすいコンパクトカメラや普及型の一眼レフだけでも楽しめる写真撮影術のみを扱っていますが、今回だけはちょっとだけ投資が必要です。とはいえ、すでに一眼レフをお使いの方には1〜2万円で済むものですので、もし機会があれば試してみてください。
そもそも夜のパレード撮影が難しい理由は、手ブレを防ぐシャッター速度(レンズの焦点距離にもよりますが、やはり60分の1秒程度が限界でしょう)で写すには光量が不足していることによります。
この条件で思ったような撮影をするには、「短時間でより多く光をフィルムに届ける」ようにすれば良い訳です。方法は二つ、「高感度フィルムを使う」ことと「明るいレンズを使う」ことです。
前者は簡単です。カメラ店で箱に「ISO800」と書かれているフィルムを選びましょう。これはISO400のフィルムの2倍の感度がありますから、半分のシャッター速度で同じ撮影結果を得られるものです。
一般にフィルムは高感度になるほど粒状感が強まり(ざらざらとした写真になる)、画質が低下します。また、色合いの再現力も低感度のフィルム(ISO100など)と比べると落ちます。しかし、最近は高感度フィルムの性能が高まっており、実用上は問題ないでしょう。
フィルムの価格は、ISO100やISO400の常用フィルムよりも多少高めになりますが、現像やプリントにかかる金額は同じです。ぜひチャンレンジしてみてください。
ただし、高感度がいいからといってもISO1600以上の超高感度フィルムは、まだ扱いにくい点が多く(粒状感やカラーバランスなどの条件がきつくなります)、お勧めできません。特殊な撮影を除いてはISO800で充分です。
もうひとつの「明るいレンズを使う」は、レンズ交換が可能な一眼レフカメラでなければできない対策です。
明るいレンズとは、レンズのカタログ表記にある「f2.8」とか「f=2.8」といった数字がより小さいものが該当します。一般的に良く使われている28mm〜70mmの標準ズームレンズの場合、この数字(「f値」とか「開放絞り」などといいます)は広角側で3.5ないし3.8、望遠側で4.5ないし5.6程度になっています。おそらくこれらのレンズを使って夜のパレードを撮った場合、ISO800のフィルムを使っていても望遠側でのシャッター速度は20分の1秒以下になってしまうでしょう(画面全体の明るさから露出を決めるオート露出の場合にはもっと遅くなってしまうこともあります)。これでは手ブレは防げません。手ブレが防げたとしても、夜のパレードも動いていますから、60分の1秒よりも遅いシャッター速度では光が流れてしまうでしょう。
夜のパレードを100分の1秒程度で写すには、ISO800のフィルム使用の前提でもf:2.8よりも明るいレンズが必要なのです。
ズームレンズで考えてしまうと、「f2.8」の明るいレンズはかなり高価です。28mm〜70mmの標準ズームで10万円弱〜20万円強もしていますので、これを買うのはあまり一般的な解決策とはいえません。レンズ自体も大きく重くなり、普及型の一眼レフに装着してもバランスが悪く手ブレを増やしてしまいかねません。
そこでお勧めしたいのが、50mmの単焦点レンズです。
ズームレンズがあたりまえとなって現在とは違い、20年程前には一眼レフを購入するときには50mmのレンズを同時に買うのが一般的でした。ズームレンズをお使いの方は、ズームを50mm付近にしてファインダーを覗いてみてください。広すぎず、狭すぎず、非常に自然な画角であることがわかると思います。ズームに慣れてしまうと戸惑うかもしれませんが、遠くにあるフロートの全体を写すことも、近くを通るときに一部を切り取ることもでき、単焦点だからといって決して難しいことはありません。
50mmレンズの価格は、NIKONの一眼レフ用のものでf1.4で3万円弱、f1.8で1万7千円程度と、非常に安価であることが特徴です。f1.4であれば、ISO800のフィルムを使用して250分の1秒という高速シャッターを切ることも可能なのです。
このレンズは、薄暗い室内での撮影にも威力を発揮します。夕暮れの写真など、ストロボを使っては雰囲気が台無しになるケースでも、ノーストロボで撮影ができるので、普段のお子さんの姿を撮影するにも重宝するでしょう。
一眼レフをお持ちであれば、ぜひ揃えておいて損はないレンズが、この50mmレンズといえます。
また、コンパクトカメラの中にも、f2.8という明るいレンズを装着したものが存在します。リコーの「GR-1s」などに代表される「高級コンパクト」と呼ばれる製品で、ズームではなく広角の単焦点レンズが装着されたものが多いです。
価格は6万円以上と決して安価ではありませんが、明るいだけでなく色の再現性やコントラストなど、風景写真の作品作りにも使われるほど高性能なのがこれらのカメラです。もし、機会があれば試してください。
さて、フィルムの選択と明るい交換レンズをそろえても、まだ終わりではありません。
最後のポイントは「マニュアルでの露出設定」です。
多くの一眼レフカメラは、「プログラムオート」という自動露出の機能が付いています。これは画面全体の明るさから最適な露出をカメラが自動的に設定してくれる便利な機能ですが、真っ暗な中を光が通り過ぎる夜のパレードを撮ろうとすると、どうしても暗い部分に引きずられてより多くの光を取り込もうとします。結果として、必要以上にシャッター速度は遅くなり、手ブレの原因を作ってしまうのです。
画面の一部分だけの明るさから露出を決定する「スポット測光」という機能を持つカメラもありますが、これを使いこなせる方はこの講座の範囲を超えますので、今回は触れません。
露出をカメラ任せにせず、自分の意志で決める「マニュアル露出」の機能は、ほとんどの一眼レフカメラについています。カメラのモード切替ダイヤルを「M」にあわせるといった操作がほとんどのようです。
ISO800のフィルムの場合、シャッター速度を125分の1程度、絞りを2ないし2.8に設定します。シャッター速度を稼ぎたいならば、絞りを1.4としてシャッター速度は250分の1秒でも可能かもしれません。
こうして撮影したのがこれです。絞りは2.8、シャッター速度100分の1秒の設定で、1段の露出補正をしていますので、絞り2.0、シャッター速度100分の1秒相当となります。
絞りとシャッター速度については厳密に考えるときりがありませんが、ネガフィルムでは露出の多少のミスはプリント時にカバーが可能です。どちらかといえばオーバー目になっていた方が補正結果は良好ですので、迷ったら絞りは開くのが基本です。
留意点としては、絞りは開くほどピントの合う範囲が狭くなりますから、ピンぼけ写真になりがちということです。画面の中で最も目立つ部分にしっかりとピントを合わせる工夫をしましょう。特にフロートを斜め前から撮る場合など、ピントのずれが目立ちやすくなります。
さて、ここで注目したいのが、コンパクトタイプのデジタルカメラです(NIKONのD1などの一眼レフタイプ以外と理解してください)。
デジタルカメラのカタログをお持ちの方は開いてください。レンズの開放絞りは、明るいものでは1.8や2.0といった数字が並んでいます。ズームの望遠側でも4.0内外となっていることが多く、コンパクトカメラ(多くの場合、f5.6やf8といった非常に暗いレンズが使われています)はおろか、一眼レフの交換レンズを上回る明るいレンズが装着されているのです。
デジタルカメラに明るいレンズが搭載されている理由や、価格が抑えられる理由はここでは触れませんが、フィルムを使うカメラに比べて明るいレンズをよりやすく入手できるのがデジタルカメラであることは、事実なのです。
また、デジタルカメラはフィルムを用いるカメラに比べてピントの合う範囲が広いという特徴もあります。これについてもここでは理由は書きませんが、ピンぼけ写真になりにくいことも重要なポイントです。
夜のパレードを撮影するのに必要な光の量は上に書いた通りですから、デジタルカメラを選ぶにあたっては「開放絞りが2.8以下(2.0など)のレンズを装着し」「マニュアル露出モードを持ち」「感度はISO800相当のモードを持つ」ものということになります。感度に関しては、ISO400モードでもレンズが1.8や2.0などの明るさであればなんとかなるでしょう。
購入予定のある方はカタログをじっくりと眺めてみてください。
さて、このようにしてノーストロボで撮影した結果が、「Disney's
Electrical Parade」の写真です。
もちろん、この方法では薄暗い場所にいるキャラクターをきれいに撮ることはできません。その場合には迷わずストロボを使いましょう。
しかし、夜のパレードの雰囲気を作っているのはやはりあの「光」です。条件がそろえられる方は、ぜひ試してみてください。