第2話 Zaurusがやってきた!<後編>(2003.7.15)
(前編より)
売る気がないのか!ソニースタイル
2003年4月に、使っていたPalm機(Visor Prism)を落として壊してしまった後の選択肢は4つほどありました。
1.壊れたPDAを修理する
2.使い慣れたPalm機に買い替える
3.他の規格のPDAを買う
4.小型のノートPCで代替する
実はこの時点での最有力は4番目でした。
仕事が外回りではなくデスクワークや打ち合わせが中心であることから、手軽さがあまり重要でない代りにPCのデータがそのまま使える、その場でオフィススイートが使えることのメリットが大きかったのです。
そして、4月半ばにはソニースタイルにVAIO U101という極小サイズのPCの購入エントリーをし、この段階では4月末の発売同時は無理にせよ、5月の連休明けにはこの個性的なノートPCを使っているつもりになっていました。
しかし、部品調達の遅れとやらで発売日は遅れ、さらにソニースタイルでのエントリーユーザーへの購入案内は開始以来1カ月を経てようやく4,5日分を消化したのみ。この調子では買えるころにはモデルチェンジしてしまいそうですし(現に、このエッセイを仕上げている7月15日現在、私には未だに購入案内のメールは届けられていません。発売日からでさえ2ヶ月、エントリーからはすでに3ヶ月にもなります)、店頭でも人気で予約しても数週間待ちということでした。
理由の如何を問わず、店頭では買えない独自モデルでユーザーを直売サイトに引き付けておいて一向に出荷しない(もちろん、出荷したくてもできないのでしょうが)という姿勢には大いに疑問を感じます。お気の毒に、この先ソニースタイルでは「とりあえず早めにエントリーだけしておこう」という仮需の増大に苦労することになるでしょう。身から出た錆といえばそれまでですが。
そしてLinux Zaurusとの出会い
選択肢がいくつもある、しかも決め手に欠ける買い物では、意思決定から購入までに間が空いてしまうと他の選択肢も含めた再検討ができてしまい、購入の決心は揺らいでしまいがちです。
今回も同様でした。VAIO U101は二つとない個性的で魅力的なノートPCではありますが、やはりPCであることに変わりありません。かつてLibrettoでソフトを使っていた時がそうであったように、起動時間の遅さやカバンから取り出す時のおおぎょうさなど、いつでもどこでもさっと使い始めたいPDA用途には向かない要素が完全になくなった訳ではないのです。私はまた迷い始めました。
訪れた量販店の店頭に発売されたばかりのLinux Zaurusの新製品を見かけたのは、そんな迷いがかなり高まっている時期です。
さて、この新しいZaurus、少し以前からLinuxをOSにしたことで話題となっており、実はちょっと気になるモデルでした。
特に2002年に発売されたSL-C700は、かなり実用的なキーボードを持ちながらデータ閲覧時には液晶を回転させてコンパクトな形状に変化するといったギミックを持ち、「モノとしてのおもしろさ」も持ち合わせていたのです。ただ、店頭で触ってみた感じではあまりに動作速度が遅く、壊してしまったかと心配になるほどで実用性には乏しいものでした。
新製品は前モデルで欠点とされていたメインメモリの量と実効速度が改善されているといい、たしかに新旧を比べてみるとスピードが圧倒的に違います。スケジューラの起動などの面ではPalmの快速さには及ばないものの、PCとは雲泥の差。これなら使えそうです。6月には上位機種が出るというのが少し気にかかりましたが、違いは色とストレージとして使えるメモリの量、そしてバッテリの大きさと辞書ソフトの有無、とのことで1カ月待つほどの差ではありませんでした(メモリはコンパクトフラッシュやSDカードで代替が可能、バッテリや辞書ソフトは別売されているものです)。
かくして私にとっての3台目のPDAとして、Zaurus SL-C750が手元にやってきたのです。
Linux Zaurusを使って〜快適キーボード
さて、使用感ですが、最大の発見は「私はキーボードに依存していたんだ」という実感です。これほどキーボードの有無が自分にとって重要だったというのは意外でした。
文章の作成に止まらず、スケジュールの修正やちょっとしたメモなどの場面でも、手書き入力ではなくキーボードでの入力が可能なのは実に快適です。
たとえばちょっとした打合せの際にメモを取るという場面はよくあります。Palmでもスケジュールに対してコメントを入力して保存する機能はありましたが、正直なところ私のグラフィティ入力の速度では、ポイントをメモする程度でも使いにくさを感じていました。
とはいえ、数分から長くても30分ほどの打合せでは、わざわざPCを取り出すのも面倒。紙に書けばいいのですが、こうしたケースでは打合せの相手や関係者に内容をメールで送ることがほとんどで、横着でキーボード依存度の高い私にとっては、手書きメモをメール送信用に入力するのは二度手間に感じられます。
打合せ記録など内容を吟味して推敲を重ねるものではありませんから、取ったメモがそのままメール送信できれば一仕事減らすことができ、ついでに相手からは感謝され一石二鳥です。こうしたつまらない簡単な仕事というのが、意外と生産性を落としているものですから、手っ取り早く済ませるに越したことはありません。
小さなPDAなら、打合せ中に取り出しても違和感はありませんし、私の場合、社内での打合せがほとんどですから相手に気を使う必要もそれほどありません(初対面のお客さんとの打合せだと、さすがに迷いますね。手書きメモを取るか、相手が電子手帳などを使うタイプなら、一言断ってから取り出すくらいでしょうか)。
だいぶ横道にそれましたが、Zaurusのキーボードは、このようなちょっとしたメモや記録にはちょうどよい、ギリギリ実用になるラインではないかと思います。
また、急いで作成せねばならないレポートの草稿を移動中や空き時間に書いておく、提案書の流れを作成しておくといった使い方でも、このキーボードは威力を発揮しています。
私は元来、文章を書きながら考えをまとめる方なのでしょう。言い換えれば、ただ考えているだけではちっともまとまらない。どこでもテキスト入力ができるキーボード付きPDAという環境がこんなにも快適で有益だともっと早く気づくべきでした。
液晶はすばらしく美しい!
このZaurus、画面は小さいものの解像度は640×480ピクセルと、一昔前のノートPC並み、非常に読みやすいフォントが内蔵されており、ある程度の長文を書いても見通しは十分。これは他のPDAにはない魅力のひとつです。
PDAで文章を書く上での私の不満の一つが、文章が長くなるとせいぜいワンセンテンス程度しか表示させることができず、前後の見通しが悪くなってしまうことでした。この弊害として、同じ文末表現が続いてしまったり、文章の意味のつながりが支離滅裂になったり、ということが起こりがちです。10代のころであれば、全く気にせずに書き進んでいてもある程度まともな文章が書けていたのですが、最近では常に見直しながらでないと、自分でも驚くようなひどい文を書いていることが少なくありません。他のPDAと比べた時、この広い液晶画面は圧倒的なアドバンテージといえると思います。
解像度だけではありません。この液晶は表示の美しさでも評判となっており、事実、写真データを表示させると実に鮮やかです。
本来の色合いよりも数倍鮮やかであることは良いことばかりではないかもしれませんが、このPDAでフォトレタッチをするといった使い方は今のところ考えていませんし(やるとすればサイズを変更してメールに添付できるようにするくらいでしょうが、それなら携帯電話の方が早くて手軽です)、データビュアーとして非常に優れた特長であるといっていいと思います。私はコンパクトフラッシュカードに記録するデジタルカメラを使っており、撮影してすぐに大きな画面で確認できるのはとても助かります。
PCとも仲良し
このLinux Zaurusは、PCと同じテキストファイルの閲覧と修正が可能です。
これは非常に便利で、打合せなどで急いでとったメモを読み返してメールで配信できる状態に仕上げる時間を大幅に短縮できます。
「ザウルスドライブ」という添付ソフトによって、ケーブル接続した時にPCからZaurusの本体メモリやメモリカードをネットワークドライブとして扱うことができ、テキストやJPEG、MP3など共通で扱えるのデータならば変換作業なしにコピーするだけで相互にやり取りができるのです。
PCからのデータ転送はさらに手軽にできるようになっており、たとえばPCの画面でテキストの該当部分を選択してF11キーを押すだけで、テキストファイルとしてデータを転送することができますし、画像として転送するのもPrtScrキーを押すだけ。
複数ページの文章やプレゼンテーションも、通常のプリントアウトと同じ手順での転送ができるのです。この「ザウルスショット」というアプリケーションの存在が、PCとPDAを併用したデータ作成を極めて快適なものとしています。
Palm機は確かに優れたPDAでしたが、標準で扱えるファイルの形式が比較的特殊であったために、どうしてもデータ形式の変換というステップが必要でした。標準のメモ帳ファイルであればPalm
Desktopで表示させてコピー&ペーストという方法もありましたが、ファイルサイズの制限がきつく(たしか4KBが上限でした)、使い勝手にはかなりの制約があったのです。
当然、不満もある
どんな商品にも欠点や制約はあります。
Linux Zaurusの大きな不満点としては、やはりこれだけ快適だと長時間使い続けるがゆえの、バッテリによる駆動時間の限界です。
液晶のバックライトを最低にしても、数時間でしょう。最近のノートPCとほとんど変わらない水準です。電池の残りを気にしながら使うのではせっかくの快適さがスポイルされてしまいます。MP3ファイルを再生しながら文章入力をする、といった使い方で4時間程度は確保したいところ。6月に大容量のバッテリが発売されるようですが、使用可能時間が伸びる一方で重く厚くなってしまうというマイナス面があり、実物を見てから検討したいと思います(結局、厚くなってしまうと胸ポケットに入らなくなってしまうことから、PowerBankという外付けのバッテリを購入し、不足したらこれを付けることにしました)。
また、ノートPCに慣れた身には、バッテリの残りが使用時間で把握できないのは欠陥といっても良い問題です。現状ではかなり大まかな表示しかありませんし、まだ大丈夫と使っていたら突然警告が出るという経験もしています。Palm機のようにバッテリの消耗が気にならないほどの省電力マシンであればまだしも(そのPalmでも、バッテリの消耗度合いをパーセンテージで把握可能です)、これだけ消費の激しいマシンではユーザーは常に残る使用可能時間を気にせざるを得ません。
動作のスピードについては、やはりPalm機と比べるとかなりのんびりしています。
とはいえ、PDAとして実用に耐えないほどではなく、PCでのPIMソフト起動に比べれば十分に快適な速度が実現されていますから、私には特に大きな問題ではありません。
細かな点ですが、たとえばキーボードのボタンでスケジューラを起動できるのは他のPDA同様なのに、なぜか最後にアクセスした日付の予定を表示してしまうのはかなり不満です。しかも、当日の予定に戻るには小さなアイコンをタップするか、メニューを選んで指示せねばならず、いらぬ手間がかかる印象が拭えません。これはソフトウェアのアップデートでなんとか改善をお願いしたい点です。スケジューラを起動する目的は、ほとんどの場合今日以降数週間の予定を確認するケースですから、前回閲覧していた日付で表示をするメリットはあまり大きくないように思われます。
メモ帳がテキストファイルを扱えるのは上述の通りですが、テキストエディタとしての使い勝手はあまり良くありません。ファイルを保存するにはファイルを閉じなければならず、小まめに保存しながら書くことができず、再度開くとカーソルは最後に編集していた行ではなくファイルの先頭にあるため、スクロールして目的の箇所を見つけなければなりません。私は結局、テキストエディタを別に導入して解決しましたが、これも改善されるとありがたいですね(とはいえ、テキストファイルのような標準的なファイル形式を扱うのであれば、ユーザーが好きなソフトを選べる「すきま」があるのは悪いことではないかもしれません)。
いくつかの不満はあるものの、ハード面の制約を除いては徐々に改善してくれるという期待を込め、Linux
Zaurusには目下のところ極めて満足しています。
すでに数多く運営されているWEBサイトの情報を頼りに、英和・和英辞書「英辞郎」を引けるようにもなり、スケジュール管理に、空き時間でのテキスト作成に、音楽鑑賞に、そして英語学習にと、すでに手放すことができません。
PDAをうまく使えるかどうかは、その人の嗜好や使い方、あるいはさまざまな設定をして使い勝手を改善する意思の有無などに大きく依存しますし、決して万人にお勧めできるものではありません。しかし、このLinux
Zaurusは、標準状態でも十分に使えて、しかも工夫によって使い勝手を向上させることができる、おもしろみのあるPDAを求める方には、是非お勧めしたいと思います。
<2003.7.15>
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