第24話 TDSの未来にキャラクターは...(2003.10.14)
2周年を迎えた東京ディズニーシー(以下TDS)のレストランで、ひとつの企画がスタートしました。ポートディスカバリーにあるホライズンベイ・レストランでのディズニー・キャラクター・ダイニングです。
9月4日から10月15日の期間限定(この稿を書いている時点では終わりに近づいています)で行なわれているこのイベント、東京ディズニーランド(以下TDL)のクリスタルパレスクリスタル・レストランやディズニー・アンバサダーホテルのレストラン、シェフ・ミッキーなどでおなじみの、レストランの席までキャラクターがやってきて食事をしながら彼らとの時間をすごせるもので、聞いている範囲ではミッキーとミニー、そしてプルートがきてくれるようです。
キャラクター・ダイニングは、テーマパークで確実におめあてのキャラクターにあえる方法として非常に人気があります。特に首都圏在住ではないなど頻繁にはパークヘ行けないゲストにとっては貴重なサービスといえるでしょう。これがTDSでも提供されるようになるのは、ゲストの要望に応えるすばらしいサービスと評価することも可能ですが、私はこの企画には反対しています。
そもそも、東京ディズニーリゾート(以下TDR)にふたつのテーマパークがあるのはなぜでしょう。
企業の経営面からはゲストの滞在日数を増やすことでホテルやレストラン、ショッピングモールなどのビジネスチャンスを増大させることをねらっているのでしょうが、それはふたつの「違う」パークが存在するからこそ成立するもの。同じようなパークがふたつ並んでいても、多様な要望をもつゲストを満足させられません。
TDSは、より幅広いゲストをカバーできるよう、当初からTDLとは別のコンセプトでつくられ、運営されてきました。カラフルなTDLとは対照的な落ち着いた色使い、お酒が飲めてコース料理が供されるレストラン、アトラクションだけでなく散策を楽しめるパークの設計、そしてディズニー・キャラクターの登場を最少限にとどめたことなど、TDSは様々な面でTDLとは違うものとしてつくられています。
しかしながら、この明確なコンセプトの違いは大多数のゲストに受け入れられたわけではないようで、平日には心配になるほどすいている、という話を聞きます。
2002年のクリスマス以来、TDSでもキャラクター色の強いスペシャルイベントが増えてきていますが、私の最大の危惧は、TDSまでもがTDLと同じくスペシャルイベント依存・年間パスポートの常連ゲスト依存のパークになってしまうことにあります。それでは単なる遊園地が二つに増えただけではありませんか。
残念なことに、TDLの現状は私には少々異常なものに思われます。年中スペシャルイベントが行われ(皮肉ではなく、何も開催していないTDLこそが「スペシャル」な存在になりつつあります)、ショーやパレードを目当てに大量のゲストが訪れる。結果として場所取りの競争は激化し、パーク内は短距離レース場か花見会場のように荒れ果ててしまいました。しかも徒党を組んで、あるいはわが子を乗せたベビーカーを凶器にして我先にアトラクションやショーに群がるのは大人ばかり。子供たちのテーマパークは、いまや「中身だけ子供のままの」大人のテーマパークになったかのようです。抽選制や待ち時間ルールなどの導入に踏み切ったことは評価できますが、そもそもこうしたパークをつくってしまったのはTDL自身の失敗です(そもそも見苦しいレジャーシートなど、登場した頃に徹底的に禁止すれば良かったのです)。
TDSでのキャラクター・ダイニングが今後も継続して行われるかどうか、私は情報をもっていませんが、今回の試みが市場調査の一環という側面をもつことは間違いないでしょう。また、現在アメリカン・ウォーターフロントで行われている工事は、クリスマスイベントに向けてキャラクターが登場するショーを行うための準備であるように思われます。TDSにおけるディズニー・キャラクターの出現頻度が高まることは、キャラクター目当てのゲストが増えることを意味しており、TDSとTDLの性格の違いはますます曖昧になります。
問題の本質は、日本においては「ディズニー=ミッキーマウス」「テーマパーク=キャラクターとアトラクション」という構図にあります。
運営面や提供するサービスの品質、プロモーションなど様々な問題があったにせよ、ディズニー以外のテーマパークのほとんどすべてが失敗している現状を見る限り、日本においてはテーマパークビジネスは未だ成功しておらず、ディズニーはミッキーと会える特異な場所としての成功にすぎない、といえるでしょう。言い換えれば、家族や友人と休日を過ごす上で、温泉などの観光地とテーマパークを伴うリゾートへの滞在とは等価に語られてはおらず、パークは子供たちを連れて行く場にすぎません。キャラクター色が薄く、アトラクションだけでなく食や景観のバランスに優れたTDSは、「テーマパークからテーマリゾートへ」という大きなパラダイム転換の柱であったわけですが、理屈通りには顧客の行動は変わらなかったということなのでしょう。TDRを訪れるゲストの多くは、いわば昭和30年代と全く同じ遊び方−日曜日にパパとママが遊園地につれてってくれる−を毎週繰り返しているだけなのだといって差し支えないでしょう。
もし本当にリゾートであることを目指すのなら、TDRのライバルは、としまえんやナンジャタウンなどの遊園地ではありません。沖縄や北海道、バリ島やハワイなどのリゾート地こそが真の競争相手であるはずです。常識的なタイミングでバケーションの計画を立てれば予約が可能であることはもちろんのこと、長期休みにハワイへ行くか、TDRを選ぶかという選択に足るだけの魅力をもたなければ、テーマリゾートへの転換ができたとはいえないでしょう。それならばTDSのコンセプトをあまり揺り動かす必要はありません。
拡大したTDLとしてのコンセプトと(現状ではこれが一番成功しやすい)、未だに実現していない(顧客の行動そのものを変えなければならない)テーマリゾートの実現を目指すコンセプトとのどちらを志向するのか、TDRは現在岐路にあるように思われます。
TDSが仮に予想を下回るパフォーマンスしか生み出せていないとすれば、企業としては放置できないでしょう。キャラクターの大盤振る舞いは方向として賛成はできなくても、理解はできます。しかし、TDSが進める方向はそこにはなく、食と景観、そしてさまざまな文化・風俗への入り口としての機能が好ましいと私は思います。
SSコロンビア・ダイニングルームやマゼランズなどTDSの食事は、テーマパークとしては相当の高水準にあります。実際、食のイベントである2003年春に行われた「ディズニー・デリシャス・デイズ」は私の周囲ではかなり好評でした。TDSの優れた景観、あるいは「ブロードウェイ・シアター」の特別席でのショー鑑賞や、特別室でのワインテイスティングなどちょっとしたアトラクションと食事を組み合わせただけで、十分に魅力あるイベントづくりが可能なのです。
テーマパークで見られるミュージカルが偽物であることなど、私たちは先刻承知の上です。マゼランの航海だって、冒険とロマンの旅と見るか、西洋人による帝国主義的拡大の先兵と見るかで大きく評価は異なるもの。しかし、価値判断はさておき、歴史や世界のさまざまな文化や風俗に触れる機会を、テーマパークが提供することの意味は大きいと思います。私達は社会科や歴史の授業で世界と触れてきました。そこには特定の価値観による偏向ももちろんありましたが(典型は「地理上の発見」や「アメリカ開拓」なる概念でしょう)、まずは知ることがスタートラインです。残念ながら公教育は「ゆとり」の名のもとに知識の入り口としての役割を放棄しつつあるようですから、その役割をテーマパークが担っても良いでしょう。
対象は子供たちに限りません。私の周囲の大人たちもそうですが、驚くほど世界の地理や歴史、文化への関心が低いのが現状です。このままではアフガニスタンやイラクが一体どこにあるのかも知らないくせに、一方的に戦争をしかけるアメリカ合衆国の人々を笑えなくなる日も近いとさえ思われます。
短期的には、キャラクターに頼って業績を伸ばすのも必要かもしれません。しかし、TDRには日本におけるリゾートライフの新たな提案と、将来を担う子供たちへの知への誘いという方向を見据えた戦略もありうるのではないでしょうか。「ディズニー・デリシャス・デイズ」の成功は、その可能性を示しているように思われます。
<2003.10.14>
|