d-essays

第23話  音楽のないディズニーなんて〜後編(2003.7.21)

前回はパークのショーやアトラクションで使われている曲から、私のお気に入りを紹介しました。後編は、数々の映画音楽から、特に好きなものを挙げてみたいと思います。
ディズニーといえばアカデミー主題曲賞の常連です。名曲は数限りなく、その中から何曲かを選ぶのはとびきり豪華なビュッフェに招待されたけれどおなかがすいておらず、一皿しか食べられそうにないようなもの。とてつもない難題ですが、私なりのベスト5を考えてみましょう。

何といっても最初に挙げなければならないのが、「ライオンキング」の冒頭に流れる「Circle Of Life」。
前にも書いたとおり私はこの作品自体は決して好きではありませんが(手塚作品との類似性はともかくとしても、自然の美しさや共生と、王と臣下の関係はいかにも縁遠いと思うのです)、この曲と共に朝日が昇り、鳥や動物たちが動き出す冒頭シーンの美しさは、ディズニー作品の中でも一二を争うものだと思います。
安易な自然礼讚や実行動の伴わない口先だけの環境保全運動に与するつもりはなく、私は単純にアフリカのサバンナに生きる動物たちを美しいと思いますし、ドキュメンタリー番組や写真集等も好きです。そしてその美しさが効果的に表されたシーンと、この音楽は、やはり名作だと思っています。

次は、「ヘラクレス」の中でヒロインのメガラが歌う「I Won't Say (I'm in Love)」を推します。この映画では主題曲である「Go The Distance」も良いのですが、映画館で藤井フミヤが朗々と歌い上げるビデオクリップを無理やり見せられて以来(たしか映画の前か後ろにくっついていたのでした)、聴いていると感情過多の藤井フミヤの顔が浮かんできて困ることがあるのです。
ディズニー作品のヒロインといえば、白雪姫以来の「お姫様」の印象が強く、明るく素直でどんな時にも希望を捨てない、いささかステレオタイプになってしまいがちですが、最近の作品ではさすがに単純なお伽話では観客の心をつかめないと思ってか、多少複雑な人物が登場します。さしずめメガラや「ノートルダムの鐘」のエスメラルダなどはその代表格で、ひねくれた大人にはちょうど良いくらいです。かつて恋人に裏切られハデスの元で働くことを余儀なくされている彼女が、そのハデスが目の敵にする単純男のヘラクレスに恋をしてしまった不覚、こんなシーンは子供だけに見せておくのはもったいないと感じます。

3曲目はいきなり時代が戻って「シンデレラ」の「A Dream Is Wish Your Heart Makes」です。邦題忘れました、「夢はひそかに」でしたっけ?
私はこの映画が特に好きというわけではないのですが、この曲はなぜか耳に残り、聴くと心が安らぐ曲の一つです。
この曲が歌われるシーンが示す通り、夢とは人前で滔々と語るものではなく、一人一人が心の中にもち続け、本当に信頼できる人とだけ共有すれば良いもの。そしてその実現のために努力すれば良いものです。それゆえ、東京ディズニーランドの20周年ショーで「夢を実現する魔法のバッグ・オブ・ドリーム」が登場するのは、あまりに直裁的すぎやしないか、と感じます。夢を語れば魔法でかなえてくれるなんて、今時子供だましにさえなりません。
私は東京ディズニーランドでかつて行われていた「ワン・マンズ・ドリーム」というショーが本当に好きでしたが、それはショーのテーマがウォルト・ディズニーという希代のクリエイターのビジョンにあったからです。何の努力もせずに魔法であっという間に夢が叶う世界なんて、私にはあまり魅力はありません(もちろん、宝くじが当たるのは歓迎ですが...)。
ディズニー・マジックは便利な魔法ではありません、人が意志をもって作り上げ、育て続けているからこそ私達を感動させるものなのです。

4曲目はふたたび新しくなり、「トイストーリー2」でジェッシーが歌う「When She Loved Me」です。
実をいうと、この曲はもともと妻のお気に入りで私は一所に聴いているうちに好きになってしまったもの、夫婦の趣味は似てくるといいますが、最近では女性の好みも同じになってきて困ったものです。だって私がタイプの女性に見とれているとあっというまに妻にばれるのですから。
それはさておき、この曲名で「Love」という動詞が過去形であることは、アニメーション作品の現在にとって象徴的であるように思えます。愛情が過去形になるのは決して珍しいことではなく、むしろ現実世界では日常茶飯事とはいえ、ディズニーの名を冠した作品で語られたということに、「白雪姫」以後の時代の流れを感じます。映画の中でジェッシーはウディとともにアンディの部屋に戻ることを選択しますが、私達は彼らへのアンディ愛情はかなりの確率でもうすぐ過去形になることを知っています。この作品をディズニー作品と呼んで良いのか(「ピクサー作品」をディズニーが販売した、というのが現実ではないのかと思えるのですが)はともかく、「And They Lived Happily Ever After」なんかウソであることをディズニー作品さえも語らざるを得ないのです。現代の作品として大切なのは、簡単に魔法でかなう夢など幻想であることを受け止めた上で、しっかりと希望を残すこと。それゆえ、私は「モンスターズ・インク」のラストシーンは大失敗であるとを信じています。インスタントラーメンのように安直に希望がかなってしまうラストシーンは、夢や希望をもつことの大切さをスポイルするものです。アカデミー賞レースで「モンスターズ・インク」が「シュレック」に敗れたことの意味を、ディズニー社は真剣に受け止めるべきでしょう。

さて、5曲目なのですが、将来登場する名曲のために欠番としておきます。
もちろん、ディズニーの映画音楽、特に主題歌級の曲はいずれもすばらしいですし、どれも好きなのですが、順番がつけられるのはここまでです。特に「When You Wish Upon A Star」に代表されるクラシックスは、いまさら順番をつけて好き嫌いを語る対象ではないように思えます。
そのほとんどがアカデミー賞を受賞していることからも、近年のディズニー作品の中で最も輝いているのはその音楽であるといって良いと思います。彼らが過去の名作群を越える作品を創造してくれる可能性は、残念ながら低そうですが、優れた曲を世に送り出してくれることは期待できます。良い音楽は映画を離れ、日常のさまざまなシーンで私達の生活を豊かにしてくれるもの、これからも新たな名曲がディズニーの歴史に加えられるのが楽しみです。
今回のエッセイはまたしても今のディズニー社や東京ディズニーランド批判のようになってしまいましたが、彼らが作り出した作品のすばらしさがあってこそ、私はテーマパークで楽しく過ごしたり好きな音楽を聴きながら通勤ができるのです。批判は否定ではなく期待であることを強調して、この稿を終えたいと思います。

<2003.7.21>

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