d-essays

第17話 ミッキーのいないカウントダウン(2002.12.26)

1年の始まりである1月1日0時をどこで迎えるのか、これはやはり大問題です。
自宅のお茶の間、近くの神社、山頂など、さまざまなスタイルがあるでしょうし、もちろん、全く無頓着な方も少なくはないでしょう。私はあまりけじめのあるほうではないのですが、年明けを迎える場所は慎重に選びたいと思ってもいます。

東京ディズニーリゾート(以下TDR)でのカウントダウンは毎年人気が高く、チケットを購入するための申込ハガキを家族親戚友人総動員で何十枚も出したとか、毎年当たらないといった話題は、秋から初冬にかけてのディズニーファンの挨拶代わりにさえ思えるほどです。テーマパークで迎える新年は、やはりファンにとっては格別のものといえるでしょう。
私の場合、東京ディズニーランド(以下TDL)でのカウントダウンは一度だけ、2001年に体験しています。しかし、あまりに長い待ち時間や入園直前の混乱、そして走っての場所取りと、新たな一年の始まりにはふさわしいとはいえない光景を見なければならないことから、よほどの改善がなされない限り、恐らく二度目はないだろうと思っています。
一方で、海外パークでのカウントダウンは、すでに2000年と2002年ににウォルト・ディズニー・ワールド(以下WDW)で経験しています。
今回のテーマは、年末カウントダウンシーズンを前に、ディズニーテーマパークでの、ミッキーのいないカウントダウンについてです。

私たちが2002年を迎えたのは、WDW内のテーマパークのひとつ、EPCOTです。
このパークでの最大の売り物は、巨大な湖全体を使って繰り広げられる花火と音楽のショー、「イルミネーションズ」です。内容は少しずつ変わりながら長期間にわたって続いており、2002年11月現在は「イルミネーションズ リフレクションズ・オブ・アース」と題されています。ショー自体はかなり有名ですし、2001年にWOWOWでも紹介されましたから、ごらんになった方も多いかと思います。水面での花火と音楽というと、日本のディズニーファンには東京ディズニーシーでの「ディズニーシー・シンフォニー」がおなじみですが、規模もショー時間も全く別格と言っていいものです。

EPCOTでの新年のイベントは、この「イルミネーションズ」の拡大版です。拡大とはいっても、通常のショーにカウントダウンと花火が追加されているくらいのもので、内容自体が大きく変わるということはありません。
TDLでの凝りに凝ったカウントダウンパレードになれてしまうと、あまりの芸のなさに拍子抜けするほどかもしれません。しかも、もともとこのパークにはときおりグリーティングに現れる以外に、ミッキーやドナルド達ディズニーキャラクターの存在は極めて希薄で、もちろんショーにも全く登場しません。音楽に合わせて花火が上がり、途中で巨大な地球儀に世界のさまざまな様子が映し出された後に再度花火によるクライマックスを迎える、ただそれだけのショーです。
いわば「単なる大がかりな花火」がこれほど感動的なカウントダウンになる理由、それは、私たち自身の心の持ちようにあると、私は思っています。

上段で書いたとおり、TDLでのカウントダウンは、下手をすると怪我人さえ出しかねない危険なものになってしまっています。殺到する多くのゲストが、いったい何のつもりで新年をテーマパークで迎えようとしているのか、私には理解できません。1年の締めくくりに彼らがしたことは、テーマパークを走り、人を突き飛ばし、割り込み、悪態をつくことなのです。有終の美という言葉はどこへ消えたのでしょう。
2000年と2002年にWDWで私が見たのは、走らず、誰とも争わず、多少は混んでいるもののすし詰めとはほど遠い、ごく普通のテーマパークでした。もちろん、駅前に徹夜で列を作って待つ人などいません。
EPCOTの花火は湖面で行われますから、とうぜん湖岸のフェンス前などが特等席といえます。2002年のカウントダウンでは、ショーが始まる直前に後方にいた子供たちを前に出し、よく見えるように全員が譲り合いました。前に出た子供たちも、フェンスに上ったり良い場所を独り占めするといったことはなく、親たちが子供をダシに前方に割り込むといった光景なども皆無。おそらく世界中から雑多な人々が集まる場所だけに、無遠慮な行動は決して許されないことを、全員がわきまえているのでしょう。

カウントダウンという大きなイベントだけに、良い場所を確保するにはやはり数時間前からの準備は必要です。しかし、それでもたったの数時間。10時間以上も並んだあげくにもみくちゃにされながら入園し、さらには走る人々に突き飛ばされそうになるTDLとは、感じるストレスの量は全く違っています。だからこそ、子供たちを前に出し、後ろの人たちが見やすいように前列は少しかがむといった行動が取れるのだと思います。
新たな年を迎える瞬間は、多くの人にとって大切で特別なもの。心安らかにそのときを迎えることができれば、特別なイベントなどなくても感動できるものだと思います。
だからこそ、そこにミッキーマウスがいなくても、EPCOTでのカウントダウンはすべてのゲストの心を強く動かすのでしょう。

TDLのカウントダウンイベント自体を、私は否定する気はありません。ミッキーたちキャラクターが登場する特別なパレードは、やはり見られれば楽しいし、大晦日だけでなく年末の数日間このパレードを行ってくれるのもありがたいことです。しかし、近年の過剰な人気は、訪れるゲストの心を狭くするものにしかなっていません。
ミッキーマウスがいなければ、ディズニーテーマパークでの年末年始のイベントが成立しないわけではないし、現に海の向こうではミッキーが全く登場しなくても素晴らしいカウントダウンイベントが実現できているのです。そろそろTDLも、「ミッキーマウスに会いに行く場所」から「それぞれのスタイルで休暇の楽しめる場所」へと変わっても良い頃ではないかと私は思います。それがリゾートというものでしょう。
TDLが開園して20年目を迎えようとし、テーマパークは私たちの娯楽の場として完全に根付いたといえます。「テーマパークからテーマリゾートへ」というTDRの拡大の成否は、カウントダウンというイベントでゲストの心を広げることができるか、隣のゲストとともに新年を祝える場を作ることができるか、にかかっているように思えます。「ミッキーのいないカウントダウン」を、日本のパークでも祝える日はやってくるのでしょうか。

<2002.12.26>

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