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第12話 海底2万マイルが混む秘密(2001.10.4)

東京ディズニーシー(以下TDS)の人気アトラクションに「海底2万マイル」があります。
パークの中央にそびえる火山の麓に、同じく人気の「ジャーニー・トゥ・ザ・センター・オブ・ジ・アース」と並んで設置されたこのアトラクション、プレビューの頃から混雑が伝えられ、ファストパスがないこともあって常に行列ができているようです。
今回は、その人気の秘密に迫ってみようと思います。

ファストパスの対象とならなかったとことから見て、もしかするとディズニーとオリエンタルランドではこのアトラクションが「センター・オブ・ジ・アース」と並ぶほどの人気アトラクションになるとは予想していなかったと思われます。
ディズニーによる同名の映画を見た人も決して多くはないでしょう。なぜ、ディズニーがこの物語を題材にアトラクションを作るのか、いぶかしんだ方も少なくないはずです。

ジュール・ヴェルヌによる原作小説は、多くの日本人が親しんだものです。
少年少女文学全集などには必ずといっていいほど収録され、海にまつわる冒険小説の人気投票でもあれば、「宝島」や「マラコット深海」、「一五少年漂流記」などと並んで上位にランクインするのは間違いのないところです。私も子供の頃、おそらくはこの物語を10回や20回ではきかないほど読み返し、ノーチラス号やそれを上回る高性能潜水艇に乗って海底を探検する夢を見ていました。30代以上の方々には、おそらく程度の差こそあれ共通の読書体験ではないかと思います。
もっとも、設定やストーリーから男性ファンは多くても、女性は少ないのかもしれません。ネモ艇長よりは、フランダースの犬や小公女、赤毛のアンの方が魅力的、という方もきっと多いでしょう。
いずれにせよ、海をテーマとするパークにおいて、かつての少年少女が抱く「海を舞台とした冒険」のイメージは、かなりの確率でネモ艇長によるノーチラス号と強く結びついているはずです。

さて、いま現在の東京ディズニーリゾート(以下TDR)の主たる顧客層は、どうも30代の男女であるように思われます。これは、ディズニー側の狙いといった話ではなく、実際に入園した際に人数として多いと感じる、という意味です。
30代の方にとっては、子供の頃から既に東京ディズニーランドがあり、首都圏に住んでいれば何度かそこで遊んだこともある年代です。また、20代の頃にデートで「美女と野獣」を観ていたかもしれません。比較的小さな頃から、さまざまなメディアを通じてディズニーの世界に触れてきた年代といえると思います。
同時に、ヤマト(...は40代にかかっているけれど)やガンダムなどのアニメ体験も持っており、テーマパークという虚構の世界で楽しむことの上手な(あるいは慣れた)世代ともいえるかもしれません。もちろん、働き手としても職場の中堅であり、収入が伸びている(購買力のある)年代でもあります。
東京ディズニーランドでの「ピン・トレーディング」に代表されるように、ときおり暴走することはあっても、TDRにとって30代は「客単価の高いグループ」であることは実態としていえると思います。

TDSのゲストのかなりの比率を占める30代(40代前半くらいまでは含めて考えても良いでしょう)の人々にとって、子供の頃から知っているネモ艇長の物語を、ディズニーがどのようなアトラクションに仕上げたのか、は大きな関心事となるのは自然なことでしょう。
小説で読んだときのあのワクワクした冒険が再現されたアトラクションとなれば、少々時間がかかっても乗っておこうと思うのは当然です。
このアトラクションにファストパスを設定しなかったディズニーやオリエンタルランドが見落としていたのは、日本人ゲストの多くが「ディズニーではない海底2万マイル」を共通の読書体験としてもっているということではなかったかと思います。
30代男女のほとんどがこの小説を読んだ訳ではもちろんないでしょう。しかし、少なくとも名前を聞いたことがある、友人から話を聞かされて知っているなど、かなり裾野は広いのと考えて間違いないでしょう。
そう、「海底2万マイル」がいつも混んでいるのは、名前が仰々しいからでも、通行者が多い場所に位置しているからでもありません(多少の影響はあるとは思いますが)。
これがTDSにやってくる多くのゲストにとっての「海の冒険イメージ」がもっともストレートに結びついた題材であるからこそ、長蛇の列ができているのだと私は思います。

しかし、こうした読書体験が、いまの子供達にとってはどんな形となっていくのかについては、私は多少の不安を感じます。彼らに共通の体験は、最初からアニメーションでありビデオゲームで、映像を伴ったものです。
ディズニーの世界は、それまで小説やおとぎ話という文字メディアで親しまれてきた世界を映像化したところからスタートしていますが、今後はオリジナルのキャラクターを生み出す力が問われるでしょう。そんな中で近年もっとも成功したのは、ディズニー単独の作品とはいえない「トイ・ストーリー」でした。
ディズニーがこれからもより多くの魅力ある世界を、映像作品として作り続け、テーマパークやグッズなどへと展開していけるのかどうか、決して楽観はできません。少なくとも当面は、私たちがもつ共通の読書体験・物語体験を活かすことも、一つの方向性なのではないかと思います。

<2001.10.4>

このエッセイを書いたTDS滞在中の写真はこちらです。
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